ライフサイクルと精神保健:胎児期〜思春期
· 1.ライフサイクルと精神保健
· 2.胎児期(出生前の母子関係)
· 3.乳幼児期
· 4.学童期
· 5.思春期
1.ライフサイクルと精神保健
ライフサイクルとは
(1)胎児期:生命の誕生から出産まで
(2)乳幼児期:歳から6歳頃まで
(3)学童期:歳から歳まで
(4)思春期・青年期:歳頃から歳頃まで
(5)成人期:歳頃から歳頃まで
2.胎児期(出生前の母子関係)
○胎教の意義
胎児の段階から、身体的にも精神的にも母子間の交流が行われている。
○胎児の能力
胎生4ヶ月頃から光に反応し始める。
胎生6ヶ月頃から強い音に対して反応する。
母親の心拍、母親の話し声
胎生7−8ヶ月頃に意識が芽生える。
睡眠状態と覚醒状態との区別が生じる。
○母子相互関係
胎生5ヶ月頃から母親は胎動を感じ始める→母子の相互交流が生じる。
胎児の活動リズムが形成される。
飲酒と持続的ストレスの悪影響。
3.乳幼児期
1)乳幼児期の心理・社会的発達と危機
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○養育者との相互関係:
乳児は大人からさまざまな養育行動を引き出すように積極的に働きかけている。
養育者と乳児の間に出生直後から相互の情緒的交流が成立している。
子供の要求に養育者が適切に一貫して反応することがよりよい相互関係を作る。
○基本的信頼関係:(乳児期の発達課題;エリクソン)
養育者とのよい相互関係が達成されることで、子供は他者への安心感や信頼感など基本的信頼を獲得するとされている。
○自律:(幼児期の発達課題)
運動・言語・認知など広範な領域での発達とともに身辺処理の技術を身につける。
これらの技術は主として周囲の行動を模倣することによって獲得され、それによって自律が促される。基本的生活習慣の確立。
○第一反抗期:分離・個別化過程
自分が母親とは異なった存在であることを自覚し、自己主張を始める。
○性格の原型の形成:子供の気質と親の養育態度との相互作用
親の養育態度サイモンズ:
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例えば、過保護・支配(過干渉)や過保護・服従などの養育態度は、家庭内暴力問題を引き起こしやすい。
逆に、拒否・支配や拒否・服従などの養育態度は虐待問題などを起こしやすい。
○エディプス葛藤:母子の2項関係から父母子の3項関係へエディプス状況
内的葛藤の高まり(自己主張と自己抑制)
○幼少期のストレスが成長後に悪影響を与える()
情緒的虐待、妊娠うつ病
近年、出生全や幼少期の体験が、中枢神経系の発達とそれにより調節される生理機能や心理状態に深刻な長期的影響を及ぼしうるというデータが蓄積されている。
米国神経科学会年次集会で、乳児期に養育放棄や虐待などのストレスを受けると、のちに記憶喪失や認知能力の低下が現れる恐れがあると報告された。
2)マタニティブルー
出産後の数日間に産婦にみられる涙もろさと抑うつ症状をいう。
一過性の正常反応と考えられている。
主要症状;涙もろさ、不安、抑うつ、情動不安定、困惑
産後、3−5日目に好発し、2−3日続く。
出現頻度;(日本)、(欧米)
3)母子関係の成立とその臨界期
愛着行動ボウルビイ;行動に反応する対象を選択し、その対象に結びつこうとする行動をいう。
○周囲の人を自分に引き寄せる行動:泣く、微笑む
○自分から周囲の人に近づく行動:吸う、しがみつく、見る、つかむ
○生後1ヶ月の乳児;感情の表出とは無関係な生理的な微笑の出現
○生後5週ー14週の乳児;社会的微笑の出現
この時期に微笑に対してあやしたり、くすぐったり、揺すったりするなど強化しないと微笑が消退してしまう。
社会的愛着;生後6ヶ月から満2歳になるまでの間が、母子分離に最も感受性が強く、修復に困難がある。
4)人見知り
人見知り現象の出現;親しみのある対象とない対象を乳児が区別するようになったこと、そして親しみのある対象に好意を持つようになったことを意味する。
愛着(アタッチメント)の形成に必要な役割を持つ。
●人見知りは生後5ヶ月から10ヶ月の間にみられ、8ヶ月頃に最も強いので、「8ヶ月不安」(スピッツ)とも呼ばれている。
5)分離不安
乳幼児が母親または母親代理から引き離されるときに示す不安を分離不安という。
生後9ヶ月頃から始まり、幼児期全般にわたり続くことが多い。
●母子分離の3つの段階
乳児が急に母親から分離されるときに示す反応
(1)「抗議」の時期:激しい感情表出
(2)「絶望」の時期:無感動の状態
(3)「脱愛着」の時期:母親への関心の喪失
6)習癖
乳幼児期の習癖:
指しゃぶり、爪かみ、鼻ほじり、髪抜き、頭を叩きつける、性器いじり、など。
これらの行動は、子供にとって一種の快楽になっている。そのため、画一的に、悪しき習癖として取り除こうと対応しない。これらの行動をやめさせる方法を取るよりも、子供の興味を他に向けるような働きかけをすることが望ましい。
時に、これらの習癖は、情緒的な未熟さの表現であったり、退行現象の現れであることもある。
爪かみ;不安恐怖、焦燥緊張の表現
指しゃぶり;穏やかな暇つぶし行動の表現
7)児童虐待
児童虐待の分類:年、児童虐待事例調査、全国児童相談所長会実施)
(1)身体的虐待:
(2)性的虐待:
(3)心理的虐待:
(4)非養育的虐待:(保護の怠慢約、棄児置き去り)
幼児では、保護の怠慢・棄児置き去りが多い。
学童では、心理的虐待と身体的暴行が多くなる。
性的暴行は歳以上になって急増している。
虐待された子供にみられる症状を被虐待児症候群という。
児童虐待の3つの要因:
児童虐待の発現には、親・子・状況の三つの要因が関与している。
●親:半数以上の親に精神的問題あり。
アルコール中毒、人格障害、知能障害、神経症等
●子供:約に心身の障害を認める。
望まれずに生まれた子供、連れ子
●状況要因:夫婦の不和、失業、借金、病気等
被虐待児童に対して、緊急の援助が必要である。
児童相談所の協力で、子供の保護を心がける。
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4.学童期
1)学童期の心理・社会的発達と危機
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学童期は、親との同一視を通じて、自己概念を高めようと努める時期である。
この時期の発達は、幼児期までに獲得した自律性をもとに積極的に外界を探索することで達成される。
○認知と思考の発達:「幼児の自己中心性」ピアジェの脱却
具体的な思考歳→抽象的な思考歳以降
○否定的自己像:習得する課題に取り組み、勤勉さの感覚を養うが、課題の習得に失敗すると、否定的な自己像を作り上げてしまう。
○対人関係の変化:友達関係が発達に重要な意味を持つ。
(1)中心的な人物が両親から、家族外の仲間に移っていく。
(2)仲間との関係が遊びの関係から、精神的な共感をともにする関係へ
子供集団の形成(ギャングエイジ);我々意識の成立
○自己の目覚め
集団の中で、規範を受け入れ、役割をになう自我が確立していく。
自分をどのようにとらえるかという自己意識も明確になる。
小学校中学年、高学年で一時的に自尊感情が低下する。
2)子供の不安
○過剰不安障害
○強迫的な子供(=強迫神経症);強迫観念、強迫行為 学童期の不安の原因:
幼児期までの家族関係に根差している。
幼児期の発達過程で基本的信頼感を得られず、積極的な感覚をもつことが出来ないことが不安の源泉と考えられる。
不安への対処:基本的信頼と真の積極性を育むことを念頭に取り組む。
○入院時の不安;拒食や拒薬、親との分離不安、見知らぬ治療スタッフへの不安、仲間から見放される不安、→看護者の危機介入;身体面と精神面の看護が必要
3)場面緘黙
話し言葉を理解し、他では自由に話すことができるにもかかわらず、ある場面では話すことを持続して拒み続ける現象を場面緘黙という。
場面緘黙は、多くの場合、小学校入学後に明らかになることが多く、特定場面で話すことの心理的抑制現象である。大多数は、言葉でのコミュニケーションに強い不安を持つための防衛的な反応と見なされている。
場面緘黙が、話したくない人への敵意の現れであったり、話すことの拒否を意味することもある。
4)多動、乱暴、不器用な子供
●注意欠陥・多動症候群
落ち着きがなく、たえず走り回り、ちょっとしたことで怒りが爆発し暴力を振るたりする。
●不注意
●多動性
●衝動性
●多動児は、衝動統制が困難なため、対人関係にもトラブルを生じやすい。
多動そのものは一般に歳までに改善するが、注意集中の悪さはその後も持続することが多い。
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5.思春期
1)思春期の心理社会的発達と危機
| 発達課題 | 発達危機 |
青年前期思春期;歳 | 集団同一性 | 疎外 |
青年後期青年期;歳 | 個人的同一性 | 役割拡散 |
2)思春期・青年期の特性
○思春期:急速な身体面の発達・成熟が特徴的
○性的機能の成熟第二次性徴の発現
○自律神経・内分泌機能の急激な発達に伴う心身の不安定さ
○情動の不安定さ
○異性に対する関心の目覚め
○自意識の発達(内省的、内面化、秘密保持)
○心理的な緊張の動揺
○過剰なはにかみと自己顕示欲などが入り混じる
○自分を意識するようになる
○他者の目、評価を気にする
○社会的には、心理的離乳の時期である
○両親や家族との結びつきが弱くなる
○自主的な傾向が強まる(第二反抗期)
○学校をはじめとする仲間との結びつきが次第に広く深くなってくる
○青年期:
○永続的な友人関係の成立
○仲間集団への準拠
○親密な親友関係の成立
○自我同一性の確立
○自我意識の形成
内面的・実存的な問いかけ
社会的役割の明確化
○モラトリアム(心理・社会的猶予期間)
さまざまな試行錯誤を行うロールプレイ
危機を乗り越えて自我同一性を獲得する
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3)思春期・青年期の精神保健の問題
)思春期危機クレッチマー):精神的な不適応状態
極端から極端に走る観念的態度
若者特有の自己中心的・独善的言動
挫折に直面したときの破局的態度、絶望感、自閉傾向
b)青年期神経症
対人恐怖や自己臭恐怖などは思春期・青年期に出現しやすい。
○対人恐怖;対人場面での緊張が強く、そのために表情・態度・動作がぎこちなくなり相手に不快な印象を与えないかという恐怖があり、苦痛が強い。
対人関係の中で、自己を意識しすぎるために生じる。
赤面恐怖、視線恐怖もその一型
多くは成人になると軽快する。
○自己臭恐怖;自分の身体から不快な臭い(体臭、口臭、わきが、便臭、おなら、性器からの臭いなど)が発散し、そのため他人に迷惑をかけている、嫌われていると確信するもの。ひどくなると、しばしば妄想に近くなり訂正が困難である。そのため、思春期妄想症と呼ばれる。
○醜形恐怖:自分の容貌(とりわけ顔貌、目つき、ニキビなど)や体型が他人と比べて醜いと確信している。
c)思春期妄想症
自分の望んでいるスムーズな人間関係を結ぶことが出来ないのは、自分の身体に何かの特異な欠陥があり、それによって他人から忌避されたり他人に迷惑をかけているからだと妄想的に関係づけ悩む状態。
身体から嫌な臭いー体臭、わきが、汗の臭い、便臭、おならのような臭いーを発する=自己臭症
自分の目つき、表情、容貌の異様さがある=醜貌恐怖
「欠陥」を持っているという妄想的な確信があり、「相手に不快感を与えている」と妄想的確信を抱いているのが特徴である。思春期・青年期に一時的に出現して自然に消失する例も少なくない。一部は統合失調症精神分裂病に移行する。神経症と統合失調症の境界例と考えられ、精神療法と薬物療法が併用される。
d)摂食障害
○神経性無食欲症(思春期やせ症、拒食症)
思春期ー青年期の女性(歳に起こる。何かの機会にやせる努力を始め、それを契機に発症する。
○極度のるいそう(やせ)標準体重の15%以下
○月経異常(無月経)
○食行動の異常:拒食、過食、嘔吐、下剤の使用(下痢)、盗み食い、気晴らし食い
○家事・仕事・運動・勉強などに普通以上の熱意で取り組む(活動性の亢進)
性格は自己中心的、頑固、反抗的で競争心が強い。精神的には活発で活動的。 精神的原因として、肥満や性的成熟への嫌悪、母親に対する愛着と敵意などが関係。やせることが美しくなることだという偏った考えを持ち、治療を回避し、抵抗する。治療関係がうまく結べないことが多い。
全体の約半数は自然治癒または治療によって治癒する。一部は衰弱から合併症を起こして死亡したり、分裂病様の状態に移行する。一部は慢性化して人格変化を来たし、消極的な生活になる。
○神経性大食症過食症
思春期の女性に多い。発症に先立って大抵やせる努力ダイエットがみられるが、神経性無食欲症ほど極端なものは少ない。自分の体重、体型に過度の関心を持ち、肥満を嫌う。2−3日に1回以上過食があり、故意に嘔吐したり、下剤や利尿剤を服用して体重を調整する。
過食発作むちゃ食いと過食による肥満への病的恐怖
極度のやせはなく、標準体重の範囲内のことが多い。
過食と絶食を繰り返すため、体重の変動が激しい。
e)登校拒否不登校
心理的な理由で(怠学は除く)欠席を伴う症候群
登校拒否の段階:
(1)心気的段階
(2)興奮期;登校刺激に反応家庭内暴力
(3)自閉的段階
状態:
急性ストレス反応(心因反応)
神経症(不安、抑うつ、強迫、緊張など)
思春期の情動障害
精神病(統合失調症など)
高学年歳以上の場合には、統合失調症による意欲減退、自閉などとの鑑別が必要。
登校拒否は中学校で高率に見られる。
発現要因:
子供の自律性の発達障害、同一性形成の障害
家庭における父親の存在が希薄
受験戦争と画一的な管理教育
対応:
心理的援助;登校刺激を与えない。
学校以外の活動の場の提供
家族へのカウンセリング
f)スチューデント・アパシー大学生の無気力状態
激しい受験戦争の末、大学に入学した学生の一部に無気力で引きこもりがちとなり、大学に行っても講義を聴くわけでもなく、友人との交渉も持たず、クラブ活動にも参加せず、一日を無為に過ごし、何回も留年を重ねる。勉強以外の趣味やアルバイトでは結構活発な活動をしているものも少なくない。
軽うつ状態を中心とする神経症病態と考えられている。
大部分が男子であり、発症のきっかけは不明のことが多い。
時期的には、新入学の後半と、卒業の年が多い。
性格的には、真面目で几帳面、その上、強迫的な完全主義者のことが多い。
g)境界例境界性人格障害
青年期は、各個人の性格特徴も明らかになってくる時期である。その偏りとして人格障害が目立ってくる。 ○境界性人格障害
○依存性人格障害
○非社会性人格障害
○境界性人格障害
情緒不安定で気分が変わりやすく、欲求不満に対する耐性が低く、衝動的で、自傷行為、自殺企図(手首自傷症候群)などを繰り返す。安定した人間関係を作ることが出来ず、自己中心的で、抑うつ、強迫などの神経症的症状、摂食障害などの症状も出現しやすい。一時的に精神病状態(幻覚妄想状態)になることがある。
h)非行
非行とは、社会的規範や秩序に反する行動である。嘘言、窃盗、家出、浮浪、怠学、性的脱線、薬物・嗜好品乱用覚醒剤、シンナー、睡眠剤など
発現率:少年の犯罪は全体の刑法犯の平成7年
初発型非行(窃盗など)が
非行の成因:家族病理、社会的環境、社会文化的要因
心理機制:
欲求不満や劣等感からの一時的逃避
不満に対する攻撃
自罰・自己破壊的行動
家庭内不和(親子、両親間の対立など)→基本的信頼感や道徳観の発達阻害
学校での不適応(学業不振、学校嫌い)→不良仲間への所属
i)飲酒と喫煙
アルコールとタバコ:依存物質
依存性の問題→健康問題
心理的には、飲酒や喫煙は大人社会への参加を試みる行為
飲酒や喫煙に走る中学生;神経症的問題をかかえていて、飲酒や喫煙が不安を回避する安定剤的な役割を持つことがある。
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出典:地域精神保健ネットワーク
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